2013/08/21
老荘思想の表れた表題?〜

「楽園の蝶」
〜柳広司〜

『楽園の蝶』:柳広司(やなぎ こうじ):2013年6月20日:\1500:講談社:県立M高校図書館
 軽さと重さが丁度良い感じ
〜栄一は京都の旧家に生まれ慶應義塾時代にコミュニズムに触れて特高警察で転向を迫られ退学処分になったが,京都時代に映画制作現場で遊んでいたことから,満州映画協会に職を求めた。降り立った新京から真っ直ぐに会社に向かったが,出迎えた甘粕理事長は15分の遅刻を咎め,無能なら首にすると脅しただけでなく,手を入れたポケットの中で拳銃を握っていた。面接が5分で終わり,机の引き出しから出てきたのは白ネズミ。桐谷監督にシナリオを持って見せに行くが,秘書風の若い女性は1週間以内に書き直してこいと命じる。本名は咲恵だが,ドイツで映画を学び,サカエという名で監督をしている28歳だ。中国映画といったら,李香蘭と長谷川一夫のメロドラマ。満州人の為の映画を作ろうとしても,日本人のセンスで描く中国人は偽物と映るらしい。同じくシナリオを書いている陳雲は桐谷監督に心酔しているが,お化け映画を撮ってから,スタジオで怪異が続いているという。近づいてきた人が突然消えたり,セットが倒れたり,夜は赤いランプを持ったお化けが徘徊しているという。赤いランプを持ったお化けの正体を突きとめると,フィルム倉庫の番人・渡口老人であった。渡口老人にとって理事長の甘粕は恩人であり,永遠の仇であるという。周囲に聞くと,理事長の映画に賭ける情熱を皆評価しているが,憲兵大尉時代の彼は,関東大地震の際に,無政府主義者の大杉栄と妻と6歳の甥を殺して,懲役10年の刑を受けていたのだ。深夜の撮影所に突然緊張が走ったのは,関東軍防疫給水部の突然のペスト対策訓練が行われた時だった。新京の昼は関東軍,夜は甘粕が支配しているとも言われている。731部隊の石井少将は甘粕理事長の留守を狙ったのか。メロドラマに駄目を出された栄一は桐谷から探偵ものを書けと命じられ,陳雲と偶々出てきた妹・桂花と共同でシナリオを書き始める。日本で流行っている怪人二十面相が叩き台だ。甘粕を黒い服装と面貌を隠した状態で見かけたことも関係している。更に,人攫いの噂も多い。子役のオーディションで,陳雲は途中退出し,泥酔した状態で連れ帰るのに栄一は苦労した。女性を主人公に映画の撮影が始まったが,ビルから飛び降りるシーンで安全網が落ち,ヒロインが軽い怪我を負った。桐谷の示唆で夜のスタジオの見張りを開始すると,どこからともなく音楽が聞こえる。柱に隠された秘密のドアから行き着いた先には,渡口老人が阿片を吸引しながら,ディズニー映画を視ていて,アナーキストの仲間の名を拷問で吐いたのは自分で,日本で獄死したことにして,甘粕が連れてきたのだという。スタジオにふらふらした状態で戻ると,陳雲が妹であるはずの桂花にもうこれ以上はできないと土下座しているが,その後に頭を殴られ,記憶は定かでない。翌日,子役が現れず,新京駅前の三角地帯に行こうとすると,731部隊が一帯を封鎖し,ペスト蔓延防止のために火を放つという。患者二人以外の避難させた名簿に陳桂花の名前はない。撮影所に戻ると,渡口老人が首を吊って自殺しており,無政府主義万歳の落書きは関東軍が書いたと噂が立った。子役が関東軍によって人質に取られたことを察した桐谷監督は,映画評論家を接待している筈の甘粕理事長に迫るが,落とした拳銃の引き金を引いたが,あいにく空砲であった。何もなかったことにすると甘粕は提案し,栄一は虚構の国の虚構の撮影所で,後に残る映画の撮影を決意する〜
 ジョーカーシリーズは重い,ぼっちゃんシリーズは軽い。こいつは程々の軽さと重さで良い感じだ。主人公がお気楽な癖に妙に頭がよく回る。彼クラスでもまだ1500円レベルなのは,積み上げた本の厚みが足りないせいか,年齢が若いせいか。どこまでが史実か分からないけど,調べるのは止めておこう。終わり方が唐突の感が強い。満州国の末路って,関東軍が武装解除したことで泡と消えたとしか知らないが,五族協和は夢幻,民間人は引き上げに汲々としていたんだよね。国籍法を作らなかった事こそ,満州独立国が日本の傀儡政権であった証となっているのだね

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最終更新日 : 2013.08.21

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