2012/10
〜10月に読んだ本〜

戦後史の正体1945-2012 ☆☆☆☆☆ 河原ノ者・非人・秀吉 ☆☆☆☆ 冥土めぐり ☆☆☆ ビブリア古書堂の事件手帳3 ☆☆☆
青葉耀く(上) ☆☆☆ 青葉耀く(下) ☆☆ 日本の国境問題 ☆☆☆ 三国志 第十一巻 ☆☆☆☆
魔法の英会話 ☆☆☆ お友だちからお願いします ☆☆☆☆ ルパン・最後の恋 ☆☆☆ さくら聖・咲く ☆☆☆
光圀伝 ☆☆☆☆☆ 鍵のない夢を見る ☆☆☆☆ いとみち二の糸 ☆☆☆☆ 小説フランス革命[共和政の樹立 ☆☆☆
宿神第一巻 ☆☆☆ 宿神第二巻 ☆☆☆ ピュリツァー賞受賞写真全記録 ☆☆☆  

冊数が多いのは真面目に仕事をしていない証拠

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12/10/31
『ピュリツァー賞受賞写真全記録』:ハル・ビュエル:河野純治(こうの じゅんじ)訳:2011年12月19日:\3800:日経ナショナルジオグラフィック社:県立M高校図書館
★★★
 アメリカの新聞王ジョゼフ・ピュリツァーの遺言で1917年に設立され,報道写真部門は1942年から
〜大型カメラ(4×5インチのフィルムをホルダーに入れるカメラからスピード・グラフィックへ)で撮られたシカゴの労働争議はスト破りをピケ隊が混紡で殴る掛ける写真が最初の受賞。日本の戦争を捉え,硫黄島に翻る星条旗は超有名。1960年代カメラは35mmに小型化されベトナム戦争と公民権運動を写し,オズワルド殺害や爆撃から逃れる沢田教一のベトナム,サイゴンの処刑,ナパーム弾から逃げる少女は有名。1980年代写真がカラーになりデジタル化され,南アフリカのハゲワシと少女は秀逸。21世紀デジタル時代〜
 1950年代までアメリカにおける黒人の地位は低く,不当な差別の下に置かれていた。世界各地で紛争があり,多くの犠牲者を生み,災害が人を襲う。この賞は幅が広いのだが,何と言っても写真だなあ。自分の生きてきた時代を振り返って見せてくれるが,衝撃的な写真で受賞した人は重い荷を担がされたような感覚を持つようだ。自殺しちゃった人もいるようだし。これは受賞者がどのように受賞作を撮ったかを物語っているのだが,カメラよりもペンの方が上って云うのをビュエルさんも意識しているようで,凝った書き方をしている

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12/10/30
『宿神第二巻』:夢枕獏(ゆめまくら ばく):2012年9月30日:\1800:朝日新聞出版:東部台文化会館
★★★
 西行が主人公で清盛は脇役
〜熊野本宮で過ごす夜,鳥が啼くのに起き出した義清は楠の下で踊る申と鰍改め玉藻の周りに狐が舞っている様を見る。璋子を捜す女官の堀河と合流し,行方を捜すと3人の童子が義清と璋子を袈裟男・袈裟女と囃し立てている。京へ帰ると源季政が義清を守りたいと近づき,蹴鞠で共に陶酔した藤原成通が鞠の翁の話を始める。盛遠が殺した袈裟御前もそうなのかと母の衣川を訪ねると胞衣(えな)を被って生まれてきた者は,人にはみえぬものが見えるらしいことが判ってきた。傀儡・放下師の申に尋ねると,あれは宿神・式神・守宮神・石神・佐久神・後戸の神・魔外羅神・翁とも呼ばれ,特に何をするでもなく存在するのだと云う。2年間出会うことのなかった女院に会うために実能の屋敷に忍び込むが「あこぎが浦」と追い払われる。鳥羽上皇の御所の障子に書かれた絵の余白に歌を所望され,鴨川の河畔で高野の覚鑁と出会い「理趣経」ではあるがままの人の姿も仏であると説かれる。歌を披露する日,璋子女院の前で筆と墨を持ち,一気に思いを歌に込めて直接障子に書き込み,吹っ切れた義清は鴨川の河原で髪を下ろし,妻子を知り合いに預け,出家し,西行と名乗って嵯峨野に住み着いた。2年の歳月で,鳥羽上皇は得子(なりこ)を皇后とし,出来た子を崇徳の猶子にし,璋子は政治から遠ざけられた。関白藤原忠通・右大臣頼長の政争が宮中に及び,仲介者・源盛行・津守嶋子により得子を呪詛しようとして朱雀が摂津で動いたと嫌疑は璋子に及ぶ。西行の従者のように源季政も出家し,璋子の汚名を晴らそうと必死に立ち回るが,鳥羽上皇と璋子が出家し,崇徳も譲位して上皇となり近衛が即位したが,崇徳の院政は実現しなかった。政争は関白・忠通の勝利に近付く。女院の具合が悪いと聞いた西行は手を回して女院を見舞うが,疱瘡に罹患し,言葉を交わすことなく別れを告げる〜
 「2年の歳月が流れた・・・」「この間・・・」という書き方はやめてくれないかなぁ。もう遅いか。「何某によると・・・」というのもやめてくれぇ

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12/10/29
『宿神第一巻』:夢枕獏(ゆめまくら ばく):2012年9月30日:\1800:朝日新聞出版:東部台文化会館
★★★
 清盛と西行の物語
〜佐藤義清(のりきよ)は徳大寺実能の家人で保延元年(1135)に兵衛尉に任じられ北面となったが,亡き白河法皇が造った私設兵とも言える北面の武士の首領が平清盛で何故か,馬が合う。東市に行き呪師の芸に感心し,同じ北面武士であっても対立する源渡・遠藤盛遠と喧嘩になりそうな時,検非違使の手先を務める放免が呪師・申と妹の鰍を救い,放免の衝撃も斥け,攫われた鰍も救出した。上皇の住まいで箏の調べを聞いた義清は,弾き手である女性が主の妹,白河法皇の猶子で愛人であり,鳥羽上皇の中宮で,崇徳天皇の母である待賢門院璋子女院であると判っても恋心を抑えられない。遠藤盛遠は源渡の妻・袈裟に横恋慕し,おばを脅迫して関係を持ったが,袈裟は夫を亡き者にしろと唆す。濡れた髪が目印と忍び込んだ先で落として抱えた首は愛しい袈裟であったことに驚愕し逐電した。妻を殺された源渡は,義清と競馬で敗れ源為義から贈られた馬を神事であるにも拘わらず,その場で殺して謹慎を命じられる。詩作で認められ,競馬で勝った義清と共に上を目指そうとする清盛は蹴鞠の技量が飛び抜けているのを申から教えられ,上皇・天皇・女院の前で披露している内に,子どもの頃に味わった何者かが現れる気配を感じた。璋子も箏を奏でると何者かが現れるのを感じる者であり,女官の堀河に呼ばれて,意気投合した二人は契りを交わす。剛勇で名の高い左兵衛尉家貞の強弓を天に向けて矢を放ち,主の後方に立てた竹筒に射込んで弓の腕も認められ,上皇の熊野詣での警護の為に同行する。清盛と義清の二人を見て四つ這いで逃げ出した獣のような男は,盛遠で,死のうとも死にきれず,熊野に出掛けて滝に撲たれる内に気絶して救われた時には僧の墨染めの衣を纏わされていた〜
 表紙の絵の白い水干が清盛で,青が義清こと後の西行。義清は白檀の香りまで衣服に籠めていた。この小説は朝日新聞朝刊に2006年12月22日から連載されていて,この本では2007年7月5日まで。そういえば,題字だけは見ていた。話を自分なりに整理すると物語が見えてくるのだが,連載中は見えないだろうなぁ。難解だ。単行本化で加筆修正したらしいが,話の進め方の順番を入れ替えたりはしないだろう。すっきり爽やかとは行かない

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12/10/27
『小説フランス革命[共和政の樹立』:佐藤賢一(さとう けんいち):2012年9月30日:\1600:集英社:茂原市立図書館
★★★
 表紙を飾るのはダントンとランバル大公妃,裏はギョテイーヌとルイ16世
〜警鐘が鳴り響く8月10日,マルセイユからの連盟兵を接待し終えたデムーランはコンドリエ街のダントンと合流し,市庁舎で蜂起の自治委員会の立ち上げを宣言し,ラ・マルセイエーズを歌いながら,テュイルリ宮へと向かった。ルイ16世は指揮官不在の国民衛兵隊を観閲したが,暴徒の姿に逃げ出し,大時計棟から議場裏の書記控室に身を移した。大時計台の車寄せに迫ったデムーランはスイス傭兵隊の組織的反撃に戦死しかけるが,連盟兵の砲撃でこれを斥け,命も拾った。王権は停止され,内閣改造で法務大臣となったダントンの補佐として書記官となり国璽を預かる身にデムーランはなったが,ロランが内務大臣に返り咲き,他のポストもジロンドは占めた。王一家はタンプル小塔に軟禁され,束の間の自由を感じていた。プロイセンとの戦いは苦しく,志願兵を募集するマラは全戸一斉家宅捜索で捕らえた王党派ら反革命分子がアベイ(大修道院)監獄から釈放される人々を血祭りに挙げてから前線へ送り出す。遂にジロンド派の大物にまで監視委員会による収監命令が出ると聞いて止められるのはダントンしかいないとデムーランは走り回った。21歳男子による普通選挙で国民公会の議員が決まり,兼職が禁止され,法務大臣を辞任したダントンは大臣時代の散財を糾弾されジロンド派と妥協せざるを得ないが,議員を辞職したロランは右傾化したジロンド派の力を増すため,地方出身の議員と地方連盟兵をパリに呼び寄せ,ジャコバン派の封じ込めを画策し始めた。王の処遇を巡り裁判所が無効だと判断は一致し,国民公会こそが裁判を担当すべきだとなった。ロベスピエールは王の処刑で革命を推進しなくてはならず,25歳のサン・ジェスト議員が,王は人民の敵であるから国際法で裁くべきだと期待以上の演説に力を得るものの,ジロンド派や平原派は裁判を長引かせ,人民投票にかけるべきだ,評決は2/3以上だ,執行猶予をつけるべきだと妨害に乗り出してくる。家族に類が及ばなければ受け入れるべきだとした王は,果たして有罪,量刑は死刑,執行猶予はなしと決まり,ルイ15世広場で従容として自分が改良を示唆した刃により首を落とした〜
 小説すばるに2010年6月〜11月に連載された。ちょいと彼の書き方に疲れてきた

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12/10/24
『いとみち二の糸』:越谷オサム(こしがや):2012年9月20日:新潮社:\1300:県立M高校図書館
★★★★
 おっ,弘前に二号店かぁ
〜高校2年になったイトが昇降口でぶつかった真新しい学ランの巨漢一年生を廃部となった相撲部の土俵に連れて行ったが,巨漢後輩はなぜだかホッとしている。仲良し4人組はサナエの発案で写真同好会を発足させたが,顧問は転入してきた教師に頼むしかない。青森から転勤してきた英語教師はイトのバイト先の常連の山本だった。張り紙を見て見学に来たのは男子で巨漢,鯉太郎であった。バイト先では,自称23歳の子持ちメイドの幸子に冷たくされ,21歳の漫画家志望の智美もよそよそしい。バイト代でカメラを買ったイトは,カメラを持たない友達二人に2万円を貸して持たせたいのだが,サナエにきつく止められ,親友とも会話ができない状態だ。連休のため連勤になる日に,幸子の家に泊めて貰うことにしたが,開店前の店で30歳の店長と28歳の幸子がキスをしているのを目撃し,衝撃を受ける。アパートに帰ろうとすると,怪しげな男が待ち伏せして,二人きりで帰ったアパートで幸子の娘の樹理杏が自分の名を嫌っているのを知って,外国人の様な名なら由来を山本が知っていると電話で聞き出し,「若々しい」を意味するラテン語だと教え,小学校4年の女の子の機嫌は直ったが,怪しげな男の素性は分からない。サナエと口を利かないまま,参加した奥入瀬渓谷への遠征で,サナエの手からデータカードを受け取ろうとして川の中に取り落としたイトは,川に入って拾うが,自分で抜け出せなくなって手を貸したサナエまで引き込んで,流される。岩か熊かと思ってすがりついたのは,先回りした鯉太郎であった。カードを見ていたサナエは三内丸山で会ったメイド珈琲店の常連が目の前の山本で会ったことに気付き,口止めとして開校記念日にメイド喫茶で奢らせる。平日の店に客だと言い張って幸子に金をせびる怪しい男は元夫だった。30万を拒否し続ける幸子に苛立った元夫は幸子の秘密を喚き散らし,止めに入った店長まで突き倒す。おろおろするイトに加勢したのは相撲得意の鯉太郎。彼は店長の従弟だったと判明した。新人応募マンガの大賞を受賞した智美は東京に出るというし,幸子が抜けたら店は立ち行かなくなる。智美は後釜を用意しているが,客の同意も得て,幸子が店を続けることを承諾させた。平日なのも構わないゲリラコンサートは歌う楽しさをイトに教える。仲が公認となった店長と幸子は,智美が東京へ出掛ける日に,親族・常連を招いて自らの店で披露宴を開催する。懲役から帰ってきた元オーナーも交え,鯉太郎の母の盆踊り歌の伴奏を引き受け,あっという間に智美の出発時刻となるが,店長からは弘前に二号店を開くと聞き,先行きを考えながらバスで出発する智美を見送るが,鯉太郎への意識が変わってきたことも感じて恥ずかしい〜
 まあ,可愛い。新しいキャラの登場で,三味線弾きの津軽弁メイドの活躍は少なくとも,もう一冊は読めそうだ

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12/10/22
『鍵のない夢を見る』:辻村深月(つじむら みづき):2012年5月15日:\1400:文藝春秋:県立M高校図書館
★★★★
 直木賞受賞作
〜「仁志野町の泥棒」小学校3年に転入してきて近所に盗みに入る母親を抱えている律子は万引き癖があったことを忘れているだけでなく私の事もうっすらとしか憶えていなかった:「石蕗南地区の放火」役場に勤める大林が実家の前の消防団詰め所に放火したのは,てっきり私に会いたいが為と思っていたのに違っていた:「美弥谷団地の逃亡者」出会い系サイトで知り合った陽次は次第に暴力を振るうようになったが,離れたいようで離れがたい。たとえ私の母を殺して逃亡中であっても:「芹葉大学の夢と殺人」工学部の学生である雄大の夢は医学部に入り直してプロサッカー選手になること。私も同じ工学部に通っているのにイラストを描きたくて,在学中に美術の教員免許を取った。雄大は大学を卒業できず,担当教授を殺害したが,未だ夢を抱いている。現実を見つめさせる為には逃亡先の盛岡のホテルの非常階段から私が飛び降りて,二人目の殺人を犯させて死刑に持っていくしかない:「君本家の誘拐」いつものショッピングモールでふと気付くと娘を乗せたバギーがない。誘拐だ。学校を卒業し,就職して,男と結婚し,子どもが欲しくてようやくできた子を疎ましく思っている自分が情けなく,マンションに帰ると泣き疲れて眠っている娘の姿をベビーベッドで発見し,いなくなったショッピングモールの男子トイレの前にそっと娘を置くしかないと考える〜
 切ない女心を表しているのだが,まあ何とも勘違い女の多いことか。自分を中心に世界が動いていると考えるのは女だけではないのだけど。男に読ませるために書いたのだろうか。舞台は彼女の故郷の山梨県かな。「誘拐」が切な過ぎるよね。どこかで有った事件をヒントに物語を紡いだと感じたのだが,正解だろうか

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12/10/20
『光圀伝』:冲方丁(うぶかた とう):2012年8月31日:\1800:角川書店:県立M高校図書館
★★★★★
 あの・天地明察の冲方さん
〜父・頼房は字・子龍の7歳の我に小石川邸の馬場に転がる生首を持ってくるように命じた。人は長と呼び,千代松が幼名だが実際には3男,同腹で6歳年長の兄・竹丸が病弱であり,次兄の亀丸が病没したため,世子となったが,父から脇差しを与えられたものの,肝試しをされているのだ。9歳で将軍家光に拝謁を許されて光國の名を貰い,12歳の正月に疱瘡に罹って死線を彷徨い,優しい言葉を掛けられて兄がいるのに何故世子なのか悩むようになった。寛永の大飢饉で死体が浮かぶ浅草川を泳いで渡らされ,死にたくない一念で成し遂げたが,父も泳いでおり,世子としての試しだとは思う。刀を貰い,鉄砲も与えられたが,兄は下館7万石の大名に取り立てられたものの,自分が追い出したような気がしてならない。14歳からは父と三人の傅役の許しを得て僅かな供だけで外出が可能となり,ありとあらゆる手段を用いて護衛を振り切ることに傾注し,芝居小屋や飲み屋や遊女屋へ出入りするようになり,17歳で仲間となった傾奇者の間では谷左馬之助と名乗って喧嘩もする。水戸関わりの者だと知っているようで,武士なら人を斬ることを恐れないはずと嗾けられ,浅草の荒れたお堂の下に住み着いた無宿者を斬り殺すことになってしまったが,必死の相手を一刀で倒すこともできず,通りかかった蓬髪の老武士が缺盆に脇差しを突き立ててとどめを刺す姿に圧倒される。逃げ出したものの,遺体が消えた不思議に老武士の正体を見分けようと出掛けた品川・東海寺にいることを突きとめて,出掛けていくと,住寺は沢庵・会津浪人の山鹿素行が居て,供養のために寺の雑事を命じられる。彼らは拾った帳面から水戸の御曹司と知って命じている。光國は詩で天下を取ろうと詩作に懸命なのだった。戦国時代を知りたければ瓶にネズミを数番いいれておけば解ると言う。讃岐高松十二万石に移封された兄と瓶の中を覗くとまさに地獄絵図がそこにあり,明を救うための援兵に賛同するのは如何なものかと考え直させられる。町奴と連むのは止めたが,千住で破戒坊主相手に学論をふっかけて撃退することに喜びを見いだしていた。しかし,倒すべき僧侶達を追い払って泥酔状態で光國を倒したのは隻眼の林家の次男・読耕斎で論に破れた挙げ句に反吐まで浴びせられた。詩を論ずるには史書に通じてなくてはならず,猛烈に学んだ挙げ句に読耕斎に再会したのは,尾張の伯父・義直に林家の講義を受けにいった折りだった。読耕斎は水戸家の所蔵する書に惹かれて小石川邸にも出入りし,光國に対しても恐れることなく,たかが世子と放言し,僧の姿を捨て採蕨の故事のごとく西山で隠棲したいのだと希望を述べる。義のない世にほとほと嫌気がさして居るからだが,光國の自分が水戸家を継ぐのは不義かと尋ねると不義だと断言される。兄を水戸家当主に据えるために何ができるかではなく,自分の血統に水戸家を継がせない方策を練る。紀伊の竹橋邸に招かれ従妹のおよつ姫に迫られるが何とかこれをかわし,朝食時に尾張の伯父の家に行き,史書編纂に取りかかっていることを知る。読耕斎の紹介で細野為景と書を交わすようになり,文武の者と褒められ得意となるが,冷泉家を継ぎ勅使として水戸家を訪ねて来た為景と面会し,意気投合して一回りも歳が離れている友を得られたことに狂喜する思いを抱く。伯父・義直が死んで史書の必要を説かれるが,興味のない光貞に代わり目録作りは光國がやらざるをえなくなった。父の奔走で近衛家との縁談が進む中,奧女中・弥智との間に子ができるが,伊藤玄蕃に水に流すことを相談するが,伊藤は子を産ませ,兄に預けると言う。輿入れしてきた近衛家の泰姫に義を貫くため,自分は子を作らず兄の子を養子と迎える積もりだと告白すると,聡明で闊達でもある新妻は子を交換すれば良いと新たな提案を行い,光國は我が意を得た思いだった。後の世に明暦の大火と呼ばれる大火事では家の者を統率し小石川から駒込へ誰も欠けることなく避難させ,駒込に史書編纂の場を設けることを父に許される。光國は赤痢に罹っても一命を取り留めたが,泰姫は二度罹患して命を落とした。旗本の子から抜擢した藤井紋太夫は13歳ながら明人を師として招くべきだと提言し,光國をうならせる。母は家光の子を産む者として懐刀である父・頼房に預けられたが,輿入れなく,兄と自分とを産み,父はこの不義を理由に生涯正妻を持たなかったのだと知る。冷泉為景が,読耕斎が若くして死に,父が59歳で他界し,追い腹を禁じ,儒式での葬礼を強行し,弟妹の前で兄・頼重の子を養子と迎え入れたいと宣告する。一人でなく二人。兄は渋々これに応じ,高松藩の世子に光國の子・鶴松を据えると言う。水戸藩主となった光國は弟達に領地を割譲し,母を見送り,将軍から認められた世子は水戸が綱方,高松が頼常と決まった。念願の水戸入りを許された光國は,水道事業が遅々と進まず,貧しさ故に悪党が蔓延る様を見て,博徒の大物と元忍の元締めを手下に加え,悪道の師とすることに成功する。江戸に戻って,学問の師を朱舜水を迎え,殖産実学を実践する。舜水は治道の四箇条を『政教分離』『税の公平』『大学制度』『海』であったが,淫祠破脚で政教分離はできたものの,税の公平までは至りそうにない。流感で世子・綱方が死に,采女が世子綱條となり,次代の水戸を支える者としては紋太夫が一番であった。紀伊の伯父・頼宣が死に,本紀二十六冊が完成した。火事小屋を小石川に移し,彰考館と変えた。早々に隠居した兄は子らの縁談を調えるよう要請される。別春会で仕入れた噂で僧を捨てた佐々宗淳・介三郎を得,全国で史書を集めるよう指示し,安積覚兵衛を紋太夫に代えて史館の要とすると,藤井紋太夫は不満らしい。詩作では言葉の神・後水尾上皇から依頼され,激賞される。保科正之が死に,改暦に失敗した安井三哲の後援も務め,儒者の蓄髪を強行する。大老の酒井家から松を頼常の妻と迎え,自家の嫁としては公家・今出川家の季姫が決まった。世間知らずの姫君を教育するため,小石川屋敷内に泥田を造り,実がならなかった悲しみを覚えさせた。隠居を考え始め,読耕斎の棲もうとした西山が思い出され,則天文字の圀の字が浮かびあがってきた。家綱が亡くなり,堀田正俊が綱吉擁立に奔走し始めると,舜水は日本の王となれと勧め,紋太夫も熱望しているが天災・火災に苦しむ貧民救済に奔走し,綱吉の治世に納得はできないが徳川の安寧の世を戦乱に陥れることに義は考えられない。後水尾上皇の硯に銘を入れ,朝廷から備武兼文・絶大名士と賞賛されても天下をとった気にはなれない。師の舜水が死んだ。朝廷から天皇直筆の手紙を受け取り,世情は光圀を天下一の善人と認めているが,それは綱吉にとって不快極まるもので,水戸家への嫌がらせは続く。生類憐憫令など笑止千万で相手にする気も起きない。水戸へ就藩すると一揆を煽動する間者が出没する。後ろで手を引いているのは将軍自らで,その稚拙な手口に呆れるばかりだ。大老・堀田が殿中で若年寄に殺害され,稲葉もその場で滅多刺しにされた。次には隠居を求めてくるだろう事を察した光圀は隠退の噂を流すように知己の大名に依頼すると,願いも出さないのに許しを与えようとする将軍に一矢を報いようと,一人の老中だけに大納言の官位を要求し,渋々受けて後,黄門と呼ばれることになる。水戸に隠居すると,またぞろ一揆煽動の間者が入り込むが前よりも巧みだ。さらに他国に一揆を起こそうとする水戸の密偵が逃げ帰ってきた。史書の断片を集めた覚え書きは秘されたが,何者かがこれを盗み見ているらしい。自由に出入りできるのは水戸大老のみ。親戚・知人を集めて催した能の会で,藤井紋太夫を楽屋に呼び出し詰問すると,水戸が将軍となった後,大政を朝廷に奉還するのが自分の義だと述べた紋太夫を宮本武蔵から習った缺盆を突いて命を絶った〜
 天地明察の渋川春海の話は欠かせない。犬の毛皮で造った衣服20着は嘘。若い頃の放蕩生活や隠居した後の百姓屋巡りが膨らんで,水戸黄門になったのね,勉強になったわ。この本は「明総浄机」が織り込まれているのだが,だれを殺したかが最後まで解らない仕組み。なるほど,よく練られているし,よく調べ尽くしたと感心。言葉巧みで,まだ30代とは思えない。邸の根太を踏み抜いたり,茶碗を握りつぶしたり,表紙の絵の虎がこれをよく表している。穏やかな黄門像を打ち破る作りで,そりゃ元から黄門様も爺じゃなかった筈だよ。義に生きようとする猛虎が光圀の姿で,それよりも大きな義に出会って苦悶する最高の文人も,義を貫いた水戸家後々の当主によって成就する歴史の不思議を予見できなかったのだろう。それにしても,泰を失った後の女出入りが描かれていないのが不自然であるのだが,侍女の左近だけを書いて,後は察しをつけろというのか,意地が悪いなあ

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12/10/16
『さくら聖・咲く』:畠中恵(はたけなか めぐみ):2012年8月25日:\1300:実業之日本社:県立M高校図書館
★★★
 佐倉聖の事件簿2
〜元大物政治家・大堂剛の個人事務所は風神雷神会の溜まり場で,佐倉聖はW大・政治経済学部の3年生でありながら,所属会員の雑用をそつなくこなす,元札付き不良ではあるが,中学生の腹違いの弟の保護者でもある。就職活動のため,広告代理店D社のアルバイト面接に出掛けて,落雷による停電となり,大切なプレゼン資料の置いてある部屋の鍵が開かなくなった。社員の犯罪を未然に防いで,アルバイトに滑り込み,会社の出した課題に取り組む一方,衆議院議員の加納からストーカーの相談と次々に秘書が辞めていく相談が舞い込んだ。無事に解決すると,二ヶ月もインターンに出掛けていたにも拘わらず中断させられた理由を加納に聞きたくて,加納に代わって落ちた議員の事務所廻りにやらされるが,次の選挙で有望な者か否かを探らせていたのだ。選挙の当落を当てる神がいると選挙参謀を務める佐々木が執拗に食い下がってくる。ソフトを作ったのは加納であったのだ。後任の事務員は大堂が電信柱の様な人間を引っ張ってきて,事務所アキラに波風を立てている。電信柱は地方議員の事務員兼秘書で,参加した企業の政治家から見た価値を数字で表現するとんでもないものだったから,何とかして取り戻す必要があったのだ。佐々木が大堂のコネを当てにして聖に内定書を送りつけさせる嫌がらせを仕掛けている。聖は大堂商事への就職を決める〜
 そうだなあ・・・W大って早稲田って書けないのかねぇ。しかも学科を書かないのが不思議だ。政治と経済じゃ,違いがありすぎるのに。女から見て料理の出来る男ってそんなに魅力的なのだろうか。変なの。しゃばけシリーズ以外にも成功しているシリーズあるのに安心したが,やっぱり女目線なのが気になる。続きがありそうだが,一冊に5年も掛けていたら,世の中が変わりすぎていて,書き直しが大変だろうに。出版社にもそれなりの事情はあるだろうけども

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12/10/15
『ルパン・最後の恋』:モーリス・ブラン:平岡敦(ひらおか あつし):2012年9月20日:\1300:早川書房:県立M高校図書館
★★★
 懐かしいビニールカバーとポケットブックサイズ。初版は2012/9/15でこれは再版,どういうこと?
〜父がピストル自殺し,遺されたコラが受け取った遺書には,四銃士の一人がルパンであるから,その言うとおりに動いて幸せになることを願っていた。伯爵はパリから車で30分の城を買い,大尉は子どもを集めて,暴力を振るう大人達を懲らしめている。実の父であるハリントン卿から贈られる金を積んだ飛行機から袋が消え,三悪人がこれを運ぼうとしているが,大尉はこれを捕らえたが,コラ嬢を攫って身代金が要求される。コラの身柄を確保した大尉との仲が接近するが,大尉は現英国王の甥オックスフォード公と結婚し,王妃になるべきだという。まだ敵の攻撃があると考え,パリの邸宅に戻るが,手下の子ども達の情報収集から敵が英国諜報機関で,ルパンが先祖から受け継いだジャンヌ・ダルクの供述を記した本を狙っており,手先のカーベッドがコラ嬢に劣情を抱いて忍び込む計画を察知し,罠を仕掛ける〜
 ルパンシリーズは多分ちゃんと読んだことがないんだ。どうも世界に入り込めない。ブランの書き方は,最初電報文のような素っ気ないスタイルで書き,推敲に推敲を重ねて完成させるスタイルだが,推敲の最中に脳血栓で倒れ,それでも頑張っていたが完成できずに死亡した。子は不完全だと発表せず,孫娘が著作権の切れた71年後に原稿を発掘し発表。確かに粗っぽい気がする。最後の恋と言うことは結婚すると言う事だった。まあ目の前にこの本があって・・・読めて良かったかな

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12/10/15
『お友だちからお願いします』:三浦しをん(みうら):2012年8月20日:\1400:大和書房:県立M高校図書館
★★★★
 エッセイ集で,タイトルのエッセイがあるかと云うと
〜1:ひととして恥ずかしくないぐらいには2:そこにはたぶん愛がある3:心はいつも旅をしている4:だれかとつながりあえそうな〜
 タイトルとなっている題名のエッセイはない。大和書房というのは子どもの頃の遊びの縄張り内。彼女の縄張りは町田および小田急線沿線。確かに東京が出てくる物語で登場人物が住んでいるのは下町で,西部・南部は出てこない。舞城王太郎の小説で調布が出てきて確かに驚いた。三浦さんは太っていて出不精で,アパートは汚く,母親は殺したくなるほどの猛烈なキャラで,父親は既に諦観を身につけ,弟も結婚しておらず暮れでも運動不足と云って都内を自転車で爆走する一家に生まれ,異性との接点はなさそうだ。結婚していないのか? ああいうお話を書く人にはエッセイからは見受けられないが,妙に納得する部分もある。そもそも,エッセイと知らず,前書きも読まずに本編に入って,最初の文章を読んで,小説じゃない! 三浦って男だっけ? と思わず調べてしまった

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12/10/14
『魔法の英会話』:成重茂寿・入江泉(なりしげ ひさし・いりえ いずみ):2009年2月10日:\1000:Jリサーチ出版:東部台文化会館
★★★
 中学英語で世界中どこでも通じるフレーズ500
〜I'm full.からCould you give me som advice?まで〜
 getは持つようになる(come to have)で受け取る・獲得する・捕まえる・理解する,becomeと同様〜なるの意味も持つ。haveは取得する・経験する・食べる・飲む・心に抱く・実行する・受け取るなど広い用途あり。takeは手を伸ばしてつかみ取る・取る・買う・連れて行く・履修する・解釈する・食べる・必要とする・時間が掛かる。giveは持っているものを与えるで,催す・発する・加える・認める・生じさせるの意味もあり。まあ,使わないと憶えないよね。使う機会を作らなくては

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12/10/13
『三国志 第十一巻』:宮城谷昌光(みやぎたに まさみつ):2012年9月15日:文藝春秋:\1650:茂原市立図書館
★★★★
 孫権が死ぬが三国は存続
〜呉の孫権は太子の登が死去した後,和を太子としたが覇も魯王として待遇を同じにしたため,群臣は二派に分かれいく。国力を弱める処置に諫言する者は力を削がれ,有為の者が消えていく。宰相の陸遜も諫止しようとして疎まれ,憤死した。71で不治の病床に就いた孫権に侍中の孫峻は亮の甥である諸葛恪を推挙し,孫権は和を廃位し覇を誅し,末子の亮を太子に立て,恪を太傅とするが,先の太子を復位させようとも考えているようだ。蜀では費イが軍事を抑え国力を充実させていたが暗殺され,羌維が表舞台に出ていく。魏の叡の養子・芳を奉じる筈の大将軍・曹爽は,高齢の司馬懿が病を得ていると侮り,一族の栄達を謀っていく。司馬懿は佯病で曹爽が魏帝と一族を連れて宮城から出た機会に宮中を制圧し,罪を重くするなと皇帝の身柄を戻し,曹爽の一族を滅ぼし,息子の司馬師にすべてを継承させた。孫権が亡くなり,呉の大権を握った魏の大権を握った諸葛恪は同じく服喪中である魏の司馬氏の隙を突き合肥の新城を攻めるため20万の大軍で攻め,蜀の羌維に南安郡を攻めさせて牽制を計っていた。司馬師は新城へ援軍を送らず,南安に兵を送って蜀を斥け,兵力を新城に向けると,攻城戦と水中りで兵の半数を失った諸葛恪は引き上げざるを得ないが,戦果を上げずに帰れないと私兵の様に用いようとする。侍中の孫峻は呉帝をないがしろにする態度が腹に据えかねず,帝と共謀して誅殺する。魏に於いても司馬氏を除こうとする陰謀が発生するが,いち早く知った司馬師は大掃除を開始する〜
 一年分の著作。一年前に読んだ内容を思い出すのに時間が掛かって,なかなかその世界に入っていけないのだ。緻密であるが故に面白いのだが,細かすぎるのも困る。登場人物の父や祖父の話や各国内の権力闘争などは世界史の授業では扱わず,一瞬の間だけで,この十一巻の内容は飛ばす。知っていて損はないけどね

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12/10/11
『日本の国境問題』:孫崎享(まごさき うける):2011年5月10日:\760:筑摩書房:県立M高校図書館
★★★
 尖閣・竹島・北方領土
〜北方領土は日ソが接近しないようにアメリカが置いた布石で,接近すると日本をせっついて,領土問題を再燃させる。竹島は紛争が起きても最初から米軍は出動しない。似たような状況は尖閣でも起きる可能性があり,中国軍が尖閣に進出しても,アメリカ議会の反対で大統領は軍を出動させず,竹島と同じ状況となる。ならば,個々の懸案で妥協点をみつけ,歩み寄りを見せるべきだ。あとは,国連の精神と,国際司法裁判所を利用すること〜
 折り合える部分で妥協し,東アジア経済圏を築きましょう・・・か? 同じ事を繰り返し書いているのは頂けないし,地図に関してもどの時点のものか明記すべきだし,イランとアメリカの関係はもっとちゃんと書くべきじゃないの?

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12/10/09
『青葉耀く(下)』:米村圭伍(よねむら けいご):2012年8月25日:\1500:幻冬舎:県立M高校図書館
★★
 皆が皆,探偵
〜大月は,真相を打ち明けることを迫られ,寅之助の前で直接,自分は真の父でなく,国主の落胤であり,入替子をしたと見せかけるため,小太郎を守る役を付けたのだと告白する。小太郎が討たれれば,寅之助の役目も終わり,村へ帰れると聞いた寅之助は,自分が生きている限り,小太郎は命が狙われるのだと考え,苦悶した挙げ句,寮を飛び出した。村に帰ることなく,飛松の家に身を寄せるが,河童組も井筒の手先も嗅ぎつけてくる。やることもなく山を上っていくと,井筒の手先が暗殺を仕掛けてくるが,小太郎と親しくなり,飛松を弟子に迎えた書物蔵出納役附きから書物司典に転出していた笹目正吾がこれを斬って捨てただった。笹目は幼い日の憧れだった寅之助の母を慕っていたのだった。小太郎を守るしかないと決意した寅之助は寮に戻り,日常を取り戻し,論語の一節を自分の座右とすべく学んで,大試にも合格した。寮も二名の増員が決定され,岩尾は肝試しを提案する。高宮淳一郎が通った後に目印の短冊は掛け替えられ,寅之助は刺客の待つ祠へ導かれるが,待ち伏せを予期して,体力でこれを斥けるが,最後の一人は高宮が切り捨てた。更に成果を確認しに来た岩尾も討ち取った。一方の小太郎は,岩尾から寮に戻るように命令され,訝しく思って内部を覗くと寮番夫婦が斬り殺され,大試に合格しなかった小野寺安之進が小太郎に当て身を食らわせ,鰯脂を蒔いて火を点けようとしたところを京の放った矢で倒したが,持っていた松明が落ちて,寮に火が回ってしまっていた。窮地を救ったのは,井戸替えの股引姿で見張っていた鈴であり,全員の無事を確かめ,話の辻褄を4人の浪人が寮に押し入って金を盗んだ挙げ句に仲間割れしたことにした。笹目は鳥越村に出向いて,多美に面会し,自分の推理を披露する〜
 やっぱり,寅が落としだねという話の方が面白いと思うけど。登場人物すべてが探偵になっていて,推理がぐじゃぐじゃ・・・勘違いを残したまま,若者はさらに成長していくということで締めているけど

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12/10/08
『青葉耀く(上)』:米村圭伍(よねむら けいご):2012年8月25日:\1500:幻冬舎:県立M高校図書館
★★★
 江戸時代の出雲
〜出雲千歳来栖藩・鳥越村の郷倉管理の中士・大月家の長男・寅之助は乱暴者で村の餓鬼大将との喧嘩に明け暮れている。唯一の同僚・矢島家の小太郎は病弱で手習い所でも秀才と認められるが,創設された藩校で学びたいが,父母に反対されている。寺子屋の師匠は一計を案じ,小太郎を主席・寅之助を次席と藩に上申して,受け入れられた。城下町の親戚と交流がなくても,寄宿舎が建てられることになっているので,送り出すが,寅之助に関しては父母も矢島家も一刻も早く退学になって帰村してくれることを望んでいる。村を出て山を登り,出会ったのは不思議な少女で,河童を家来にしようとしているのだったが,呉服屋の鳴海屋の娘だと名乗る。息も絶え絶えで藩校に辿り着いた先で,寮の訓導・岩尾兵馬に二人は取り違えられる。仮の寮には家老の息子・高宮淳一郎がいて,雑司の正助が何かと手伝ってくれるが,正助は鳴海屋のお娘・鈴の弟と判った。学問嫌いの寅之助は川の畔で石を蹴飛ばして河童と間違えた棒手振の飛松と知り合う。寅之助の楽しみは武道の稽古だが,経費の問題で,弓術しか道場はなく,しかも元服後の者しか受け入れないと聞いてがっかりする。退学せずに夏巻京の手ほどきを受けたいと願っているが,学問も精進しないと進級できず村に返されてしまう。京と鈴は江戸から療養のため下ってきた双葉姫の学友であったが,老女・井筒に毒殺されたらしく,腹違いの弟に会いたいとの願いを叶えるため,二人だけの河童組を作っていたのだった。病弱の双葉の弟なら,病弱の小太郎が殿様の御落胤に違いないと踏んで真相を探ろうとするが,来栖継昌の子がいることに気をとられている藩主弟・定彰が根絶やしを狙っているのだ。小太郎が藩校の大池に突き落とされて危うく殺される所を鯉を捕りに来ていた飛松に救われる。河童組は,鳥越村の二組の夫婦が入替子をして追究を避けていると考え,月並みの報告に来た大月を待ち伏せる〜
 絶対,この墨で書いた絵が邪魔している。売上げも伸びないだろう。いままでのシリーズとは少しテイストも違えているが,米村を知っている人しか本を手に取らない。すぐに文庫本になるだろうが,そのときは絵も変えて何とか売ろうとするのだろう。絵が残念

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12/10/06
『ビブリア古書堂の事件手帳3』:三上延(みかみ えん):2012年6月30日:\550:アスキー・メディアワークス:県立M高校図書館
★★★
 栞子さんと消えない絆
〜男性客に絶版の文庫本が少ないと言われて地元の古書市に出掛け,10円差で競り落とせなかった栞子は,出品した覚えのない本を持ち帰らざるを得ず,自分の持っているひまわり娘を店に出そうとするが,競り落とした古書店は腹いせに一冊だけ抜き盗んだといちゃもんをつけてきた。男性客は過去に古書店に勤務し,競りの仕組みを知っており,別れた妻に指輪と一緒に贈った本を妻が売ったのを取り戻したかったのだ。坂口しのぶがこどもの頃読んで忘れられない狸と犬と鰐が出てくる絵本みたいな本を捜して欲しいと云ってきたが,20年以上足を踏み入れていない実家にあるに違いないと3人で出掛けていくが,しのぶの母は娘を罵倒し続ける。それでも,しのぶが作った犬小屋としのぶの部屋は綺麗に残されており,不自然だ。本はチェブローシカと判り,母と娘の関係修復に乗り出す。母の友人の北鎌倉の古い家に住む独身女性は,父親が遺した宮沢賢治の初版本の春と修羅二冊の内の汚い方を兄か兄嫁が盗んだという。事情を聞くと,兄嫁からは若干の不審点が浮かびあがるが,栞子は犯人ではないと,彼らの自宅にいる甥を訪問する。彼は祖父が読むように勧めてくれた本が大学に寄贈されたり,売られるのが嫌だったのだ〜
 ヒロインに残されたクラクラ日記は妹が持っていて,そこに書いてあるアドレスに向けて,近況報告のメールを出していたのだ・・・と。瓜二つの母と娘,母の失踪の謎はまだ解明されない。しかし,世の中に稀覯本とか初版好きの人はいるのだなあ。だからドラマも展開されるのだが,私は興味がなく,飽きてきた

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12/10/04
『冥土めぐり』:鹿島田真希(かしまだ まき):2012年7月30日:\1400:河出書房新社:県立M高校図書館
★★★
 芥川賞
〜「冥土めぐり」父は突然の脳疾患で死亡した。スチュワーデスだった母は贅沢な暮らしがしたく,勤め始めたばかりの弟は,母の贅沢に応えてカードを使いまくり,遂にマンションまで売る羽目に陥った。私はセクハラで勤めていた会社を辞めて,区役所のアルバイトで知り合った男と結婚したが,その夫も脳疾患で障害者となり,脳に電極を埋め,パートの私に頼りながらも,電動車椅子に乗って自由に行動できる日を夢見て実現した。かつて母が祖父母や兄弟と行った高級リゾートホテルが区の保養所となり,5000円で泊まれると聞いて,夫と一緒に小旅行をして,家族の柵から解放される思いを感じる。「99の接吻」下町に暮らす女だらけの家の末っ子の私は,芽衣子・萌子・葉子の姉が大好き。波風が立ったのは,下町に観光客のように暮らし始めたSに姉3人が同時に恋したからだった。3番目の姉と結婚の約束までしたが,結局そとの人に警戒せざるを得ない姉は婚約を解消したが,仲直りした姉3人は私を弄り倒す。そう,私はペット〜
 と曲解しちゃったけど,個人的読書の記録だから良いとしよう

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12/10/03
『河原ノ者・非人・秀吉』:服部英雄(はっとり ひでお):2012年4月25日:\2800:山川出版社:県立M高校図書館
★★★★
 さて・・・どういう繋がりがあるのでしょう
〜犬追物を演出した河原ノ者たち:武士の訓練と見せ物的要素を持つ犬追い物は犬の馬場(いんのばば)で行われたが,それには犬を集め,逃げた犬を追い掛け捕らえ,騎乗の武士を支える河原者の存在が欠かせず,絵からも帯刀していたことが判り,多くの報酬を得ていた。時に武装集団としても活躍する。大和北山非人宿をめぐる東大寺と興福寺:京から東大寺の大仏をお参りする人は多く,参詣人が慈悲の心から哀れなライ患者に施しを与えるため,発症したために家から出され,集落を作ったのが北山の坂で,その世話をするのが非人の役目だった。当然,仏教の精神から救貧所を作ったが,病に冒された人の唯一の楽しみであった入浴施設も作られた。京の清水坂も参詣客が多かったので,宿が作られたが,東大寺系と興福寺,八坂神社の利権争いに巻き込まれるケースが多かった。都鄙の療病寺と非田寺・清目(カワタ):救ライ活動の展開と地方の差別構造。信濃善光寺も参詣客が集まるから,乞食も多く,利権も絡む。全国に善光寺は勧請され,療病寺も造られる。越後国荒河保の「入出非人所」と奥山庄の「ひにんかう屋」:どこにあったのか。重源上人と「乞?非人」:東大寺の再建に非人が動員されたのは,土に触ると土神に祟る土用にも工事を継続する必要があったからで,大きな収入を得ていた。作庭や井戸掘りも同様で危険を伴い,特殊技術を要したため,穢多ならそのタブーを超越できたのだ。サンカ考:三角寛のフィクションはよくできているが,そもそも「サンカ」とは「サカノモノ」を強調して「サンカモノ」となり縮めて「サンカ」だ。太鼓作成と中世筥崎宮散所:神事に太鼓は欠かせず,太鼓は皮の高度な加工技術が必要だ。カワタはそれゆえに免役された。人身売買史断章・現代と中世を交錯する遊び女像:遊女は賤視されなかったが,かといって貴顕を産む白拍子ばかりではなかった。豊臣秀吉:父のない子として生まれた秀吉は継父と折り合いが悪く,家出して乞食の暮らしを玄海でした。猿まねで針を売り歩き,義兄は鷹の餌場管理の小役人だったから,賤視される餌差しとも繋がりがあった。母は連雀商人の一家に生まれ,新興商人で賤しい身分とされたが楽市などの市場の開発で利権も存在していた。淀の方は,子種のない秀吉のために,淀城内におこもり場を作り,非配偶者間受精で鶴松は授かったのだろう。陰陽師が絡む。夭折したのちに生まれた拾(秀頼)については,名護屋対陣中に淀が奧女中と僧侶・陰陽師と乱脈に走った結果で,関係者は多数処分されたが,自分の子とせざるを得なかった。陰陽師は各地に開墾に狩り出され,秀吉の死後,帰京したが,各地に痕跡は残る〜
 ライ患者の施設として非人村はあったのかぁ。差別される立場にありながら,脱賤して大名になるものもあった。農民の目からすると,タブーを恐れない者達に恐怖を覚えたのだが,権力を持つ者はうまく利用した。農民からの視点だけじゃ,差別問題は語れないなぁ・・・為になったが,退屈な部分(多分に学術的な箇所)は眠くなって困った

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12/10/01
『戦後史の正体1945-2012』:孫崎享(まごさき うける):2012年8月10日:\1500:創元社:東部台文化会館
★★★★★
 「戦後再発見」双書@
〜日本の戦後の外交を見ると,対米追随派と自主派に分けられ,自主派は@占領軍の指示で追放されたりA検察が起訴しマスコミが大々的に報道し政治生命が断たれたりB政権内の重要人物を切ることを求められ結果的に内閣が崩壊させられC米国が支持していないことを協調し党内の反対勢力の勢いを強められD選挙で敗北E大衆を動員し政権崩壊を招くかして早々に政権を奪われている。自主派は,重光葵・石橋湛山・芦田均・岸信介・鳩山一郎・佐藤栄作・田中角栄・福田赳夫・宮沢喜一・細川護煕・鳩山由紀夫・・・異色な人としては小沢一郎。Aの例としては,芦田均は昭和電工事件,田中角栄・ロッキード,竹下登・リクルート,橋本龍太郎・日歯連事件,小沢一郎・西松建設+陸山会。Eの例が岸信介。対米追随派は吉田茂・池田勇人・三木武夫・中曽根康弘・小泉純一郎の他,海部俊樹・小渕恵三・森喜朗・安倍晋三・麻生太郎・菅直人・野田佳彦。自主派から追随派に移行させるシステムとしては,地検特捜部と報道。一部抵抗派もいて,鈴木善幸・竹下登・橋本龍太郎・福田康夫だ〜
 なるほどねえ・・・そういう見方ができるね。終戦間際は非軍事化と生産の破壊,冷戦開始で再軍備と経済復興,冷戦終結後は経済上の敵とアメリカの大きな流れはある。この@は売れているらしいが,A本当は憲法より大切な日米地位協定入門(前泊博盛)やB安保村の論理(豊下楢彦)は売れるだろうか

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12/10/
 
★★
 
 
 

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最終更新日 : 2012.10.31

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